小説?コラム?いいえ楽譜です。寺内大輔『ルールズ』


2025年5月、京都市立芸術大学移転事業として、芸術資源研究センターの主催による『Notation:Mutation 変異するノーテーション』が開催されました。企画を担当したのはロゼッタ、演奏は野営地も交えて行われました。その中で紹介された新作音楽の一つである、寺内大輔さんの『Rules/ルールズ』が、2025年10月に楽譜として出版されました。
寺内さんは作曲家・即興演奏者・教育者として、広島を拠点に国際的な活動をされていて、野営地のメンバーでもあります。
今回の企画のために、寺内さんに作品制作を依頼したロゼッタ主宰の橋爪が、その楽譜の魅力についてご紹介します。

楽譜ってなんだろう?

皆さんは「楽譜」と聞いて何を思い浮かべますか?
・小学校で習った五線譜(おたまじゃくしみたいなのがいっぱい並んでるやつ)
・TAB譜(ギターかベースやってますよね?)
そのほか、琴や三味線の楽譜に謡本。カラオケの採点に出てくる線とかも楽譜の一種かもしれません。古今東西いろいろなものがあります。とにかく、音楽を演奏するための手順を示す記録であったり、指示書であったりするのが楽譜と言えるでしょう。

『Rules/ルールズ』って?

楽譜を作る時って、大抵音楽が先にあるんです。例えば、鼻歌を作った。いい歌だなと思った。この歌をみんなで歌おう。他の人にも歌ってもらおう。じゃあ楽譜作ろう!という流れで楽譜が必要になったんです。昔は録音なんかできませんでしたからね。
ここで、自分が歌えればいいや。忘れてもいいや、と思ったら楽譜なんかできてません。
自分が後で思い出せるように記録しときたいなー、という思いで楽譜を作った人もいると思います。
でも、作曲家・寺内大輔さんのパフォーマンス作品『Rules/ルールズ』(以下『ルールズ』)は、そんな発想とはちょっと違った視点で書かれた楽譜です。

文字通り、ルールを決める

そう、この作品ではなんと音楽そのものではなく、実演する際のルールのみが決められているんです。実はこういったルールを使った作品は過去にも盛んに作られています。「インストラクション・アート」「ノーテーション・アート(指示書形式のアート)」「イベント」とも呼ばれる形式は、ジョン・ケージによる図形や言葉による楽譜が有名です。1960年代初頭にフルクサス(Fluxus)によって独自の発展を遂げました(ちなみに本イベントではFluxusメンバーの塩見允枝子さんの新作も発表されました)。
とはいえ、ありふれたとまでは決して言えませんが、ルールのみを決めるタイプの楽譜、実験音楽業界内ではそんなに珍しいものではありません。でも寺内さんの『ルールズ』にはとんでもなく珍しい部分があります。

なぜ文庫本?

『ルールズ』は文庫本形式で出版されています。よく見ると、表紙の一番上に「楽譜としての随想」と記してあります。さらにページを開くと、冒頭でこう宣言されています。

本作は、楽譜としての随想である。

寺内大輔(2025)『ルールズ』しおまち書房、p. 2。

そうなんです。楽譜としての随想なんです。
ルールそのものが記された手順書の形式となる楽譜が大多数な中、この作品ではなんとルール制定に至る思考の動きやリハーサルの記録、はたまた初演に対する演奏評(あるいは感想)まで記されている。もはやどこまでがどういう作品でどういう表現なのか、ルールズというタイトルを持ちながら思いっきりぼやかしてくる。いや、でもこれ全部が作品なんです。
私は少し前から、「ノーテーション文学」というジャンルを提唱しています。テキストによる指示に、何かしらの文学性が含まれているもの。もっと簡単にいえば、テキストだけ読んでも読み応えがあるものを「ノーテーション文学」と読んでいます。

寺内さんの『ルールズ』はまさにその最先端をいくものではないでしょうか?

本当に変異しちゃった楽譜

「Notation:Mutation 変異するノーテーション」では、楽譜が元々の形(音楽を記録し、伝えるもの)から、創作ツール(楽譜を使って音楽を作る)へと変化していった歴史を振り返り、その延長線上にいる私たちは、いったいどんな発想で新たな表現ができるのか、というテーマを掘り下げました。寺内さんはロゼッタのそんな投げかけに堂々と答えてくださったのです(ありがとうございます)。
さて、みなさん気づきましたか?実はこの記事では作品の内容には全く触れていません。楽譜そのものについてだけで一本記事が書けてしまう『ルールズ』。いったいどんな作品なんでしょう?

本当に変異しちゃった楽譜、読み物としても楽しい『ルールズ』。
詳細は以下のボタンをタップ/クリックしてください。

寺内大輔    Daisuke Terauchi

作曲家・即興演奏家。 広島大学・同大学院准教授。
エリザベト音楽大学大学院、九州大学大学院修了。作曲を、伴谷晃二、近藤譲、クラース・デ・ヴリーズ、ヴィム・ヘンドリクスの各氏に師事。室内楽作品の他、パフォーマンスのための作品、即興演奏のための作品、水族館やパソコンソフトのBGM、校歌・寮歌など多方面にわたる作曲活動を展開。その他、美術分野と関わりの深い作品やカードゲームの制作も手掛けている。

即興演奏分野では、声を中心とした様々な楽器の持ち替えによるスタイルで、コンサートホールのみならず、クラブや美術館、路上にいたるまで様々な場所での演奏を行っている。

これまで、日本を含む14 カ国の芸術祭、コンサートで作品発表・即興演奏を行い、楽譜・CD 数点が国内外で発売中。

Composer and improviser, Daisuke Terauchi has presented his composition and improvisation at art festivals and concerts in 14 countries including Japan, and his scores and recordings have been released in Japan and abroad.

https://dterauchi.com

執筆者プロフィール

橋爪皓佐
橋爪皓佐
ProtoZine編集長。一般社団法人コロゼッタ代表理事。ロゼッタ主宰。
音楽を中心とした創作・実践・研究などを通して、新たな時代の芸術表現のあり方を考え続けています。

\ 最新情報をチェック /

ProtoZineでは一緒に関西の音楽シーン・アートシーンを盛り上げる仲間(寄稿者・執筆者)を募集しています。

編集・撮影・運営等に携わるボランティアも募集中です。どうぞお気軽にお問い合わせください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です