柴田高明<Mandolin with> アジアから切り開く新たなマンドリン文化

マンドリン音楽の可能性<クラシック音楽の文脈拡張>

マンドリンという楽器は、クラシック音楽界の中で独自の発展を辿ってきた。
イタリアの民族楽器とも位置付けられるが、日本では学生マンドリン・オーケストラを中心に、アマチュアによって培われてきた伝統がある。一方で、楽器として正当な歴史を持っているにも関わらず、クラシック音楽の文脈で語られる機会はまだ少ない。
そんな状況を打開すべく、自ら切り開いているのが、京都を拠点に活動するマンドリニスト・柴田高明だ。

ドイツのカッセル音楽院で専門的にマンドリン演奏を学び、内外のコンクールで受賞歴を重ねた。留学を終えて帰国したのち、ソリストとして、また室内楽奏者として、国内外で演奏活動を行うほか、自身がマンドリンを始めたきっかけでもある、マンドリン・オーケストラでの活動も継続している。学生団体、社会人団体の指導や、自らが主宰するマンドリンオーケストラ・ギルドでも定期公演を重ねている。
アマチュア文化が中心的なマンドリン文化の伝統を継承しながらも、ソリストとしても確かな足取りで歩み続けている柴田氏。かねてより京都市西京区の老舗音楽ホールであるバロックザールを起点として、日本各地でリサイタルを継続的に開催している。

プロジェクト『A Mandolin with…』

2025年からは新たに『A Mandolin with』と題した「マンドリンを含む室内楽作品」を創作する室内楽プロジェクトを開始。
3年間で三つのリサイタルツアーを計画し、毎年異なるアジアの作曲家に、異なった編成の作品を委嘱し、さらには国際的に作品の提供を求める公募活動も行なった上で、リサイタルを組み立てるという試みだ。
独奏楽器、マンドリンアンサンブルのレパートリーに比べ、このシリーズで取り上げられる声楽、ヴァイオリン属、管楽器といった楽器との室内楽作品はまだまだ不足している。マンドリンが未来に向けてクラシック業界でより重要な地位を得るためには、ここを開発していくことが必要不可欠だ。年度ごとのテーマとなる楽器編成は以下の通りである。

・2025年<with Voices/Winds 管楽器、声とマンドリンによる室内楽>
・2026年<with Bowed Strings 絃楽器*とマンドリン> (*ヴァイオリン属の楽器)
・2027年<with Mixed Instruments/Voices マンドリンと、管、絃、打楽器、声楽>

同プロジェクト初回の実演となったリサイタルは、2025年4月にバロックザールにて開催された。委嘱作品としてマレーシアのHueyChing Chongによる『試み:iki(su)ru』と、シンガポールのGu Weiによる『Sekar Jagad』、さらに公募作曲家としてアメリカの若手作曲家アダム・バイターの『ルナー・ランデヴー』が初演された。
同公演に関しては、マンドリン専門誌「奏でる!マンドリン」2025年秋号に詳細なレビューを記したので、興味のある方はぜひご覧いただきたい。

マンドリン室内楽の魅力とその未来

同公演ではモーツァルト(1756-1791)、G.F. ジュリアーニ(1760-1818)、壺井一歩(1975-)などの作品も演奏された。
マンドリンと他楽器との対話がどのように成立するのか、参考として柴田氏と葛西賀子氏によるG. F. ジュリアーニ作品の演奏(2012年)をご紹介する。

ヴァイオリンと同じ音域を持ちながらもより軽やかに和音を奏でることができるマンドリンは、フルートのような音量の比較的小さい楽器の伴奏で意外な活躍を見せる。この演奏の中でも、柴田の奏でるマンドリンが奏でる、粒の輪郭がはっきりとしたそれでいてしなやかな音色は、空気に柔らかく音色を纏わせるようなフルートの抑揚表現と相乗効果を生み出しているのが特徴的だ。
こういった既存の魅力を再度確認しながら、新たな音楽が生まれる楽しみを提供しているのが、柴田氏のリサイタルの特徴とも言える。

プロジェクトの第二回目となる2026年の公演に先駆けて、現在はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロとマンドリンを組み合わせた作品を募集中だ。
クラシックギターが20世紀に世界各地の最先端の作曲家に取り上げられ、その奏法や用法が作曲家に広く知られていったこと。それに対し、同じ撥弦楽器であるマンドリンは、演奏者を兼ねる作曲家による作品が主流である。もちろん、重要なレパートリーが存在していないわけではないが、まだまだ多くの可能性を見出す余地がある楽器であることは否めない。
興味のある作曲家の方々には、是非一度公募ページを確認いただきたい。

マンドリンに親しみのないクラシック音楽ファンの方々にも、こういった特異な取り組みに対し興味を持っていただければ幸いである。

マンドリンが担うアジアのクラシック音楽

次年度は公募作品とともに、香港のAustin Yip, 韓国のパク・ミュンフン、台湾のリウ・ポーチェン(劉博健)による新作初演が予定されている。
世界的に活躍するアジアの作曲家たちが、日本独自の文化となっているマンドリンのために描く新たな世界観は、どのようなものになるのだろうか?
豊かなマンドリン文化を持つ京都の土壌と、クラシック音楽という文脈でそれを強化し続ける柴田高明による、アジア全体が共同する稀有なプロジェクト。
公演に関するニュースは今後ProtoZineでご紹介する予定だ。


柴田高明|Takaaki Shibata

ドイツ・カッセル音楽院器楽教育課程マンドリン科にて学ぶ。

日本やドイツのマンドリン独奏コンクールに数多く入賞。2006年の帰国以降リサイタルを国内各地で開催し、CDはこれまでに日本国内盤「麗しき薔薇を知る者」「クロニクル〜マンドリン音楽の300年」「冬のエレジー~マンドリンと弦楽トリオの為の現代邦人作品集」を、またドイツにて「sky blue flower」を発売。レパートリーは幅広く、現代音楽の分野でもロゼッタ(音楽アンサンブル/アートコレクティブ)のメンバーとしての活動の他、多くの新作初演を行なっている。

ソリスト・講演者として、ヨーロッパやアメリカの国際音楽祭、国際シンポジウムに招待参加。マンドリン専門誌「奏でる!マンドリン」では,2008年の創刊当初より2021年までマンドリンの歴史や奏法などに関する記事を連載するなど、演奏・研究両面で広く活躍している。マンドリンオーケストラの分野でも、マンドリンオーケストラ・ギルドを主宰、また宇治マンドリンアンサンブルフローラアンサンブル・カノン京都大学マンドリンオーケストラ各技術顧問、ジャパン・スーパーユース・マンドリンオーケストラ講師を務める。

こどもマンドリン工房かえるむ主宰。一般社団法人コロゼッタ理事。大阪音楽大学ギター・マンドリン専攻非常勤講師。日本マンドリン独奏コンクール、並びに全国高等学校ギター・マンドリン音楽コンクール各審査員。 木下正紀、G.ワイホーフェン、S.トレッケルの各氏に師事。

執筆者プロフィール

橋爪皓佐
橋爪皓佐
ProtoZine編集長。一般社団法人コロゼッタ代表理事。ロゼッタ主宰。
音楽を中心とした創作・実践・研究などを通して、新たな時代の芸術表現のあり方を考え続けています。

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